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京都地方裁判所 昭和43年(レ)112号 判決

控訴人

松本守男

外一名

代理人

佐々木善一

被控訴人、神田こと

咸甲道

代理人

田辺照雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実《省略》

理由

一原判決事実記載の被控訴人主張請求原因第一、第二項の事実については、被控訴人主張の支払が本件土地の賃料としてなされたか損害金としてなされたかの点を除き、当事者間に争いがない。

二先ず、本件調停条項第四項の意味について判断する。

〈証拠〉を綜合すると、賃料支払遅滞の場合の制裁条項である本件調停条項第四項(「申立人において、第二項の賃料支払を三回以上怠つたときは、賃貸借契約は当然解約となり、申立人は相手方両名に対し、即時地上建物を収去し、本件土地を明渡すこと。」)は、賃料支払を三ケ月分怠つたとき、本件賃貸借契約が当然解除となる趣旨(失権約款)において、本件調停が成立したものと認めうる。右認定に反する〈証拠〉は採用せず、他に右認定を動かしうる証拠はない。(なお、被控訴人は、右条項第二項にいう、被控訴人が、控訴人等に対し、毎月一五日限り向う一ケ月分の本件土地の賃料を先払いするとの定めは、その後、毎月一五日当月分を支払えば足るものと変更された旨主張するが、右主張事実を認めうる証拠はない。)

三前記当事者間に争いがない事実から、昭和四一年一二月一六日、昭和四二年二月一六日、同年四月一六日、同年八月一六日の四回にわたり、本件調停条項第二項(なお、同項にいう向う「一ケ月分」とは、弁論の全趣旨により、翌月一日から末日までの分を意味すると解するのが相当である。)に基づいて、三ケ月分の賃料支払の遅滞が生じ、失権約款の条件が成就したことは明らかである。(なお、本件土地の賃料債務が取立債務であるとの被控訴人の原審および当審供述は採用し難く、他にこれを認めうる証拠はない。)

四賃料の支払を三ケ月分遅滞したときは賃貸借契約は当然解除となる旨の失権約款が、調停条項に定められている場合、右失権約款の条件成就の後、賃貸人が、右条件成就の三ケ月分の遅滞賃料およびその後の賃料を受領したとき、特別の事情のないかぎり、右条件成就の遅滞賃料分にかぎり右失権約款の適用を排除する合意が賃貸人・賃借人間に成立したと解するのが相当である。

〈証拠〉を綜合すると、被控訴人は、昭和四一年一一月分以降の本件土地の賃料につき、前記のとおり、四回にわたり、三ケ月分の賃料の支払を遅滞したが、その後、被控訴人等に対し、右三ケ月分の遅滞賃料およびその後の賃料を支払い、控訴人等において、これを異議なく受領してきた事実を認めうる。右認定に反する〈証拠〉は採用し難く、他に右認定を動かしうる証拠はない。

したがつて、前記条件成就の三ケ月分の賃料遅滞について本件調停条項の失権約款の適用を排除する合意が本件当事者間に成立したと認めうる。

五よつて、被控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があり、これを認容した原判決は相当であつて、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(小西勝 山本博文 寒竹剛)

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